皆さまは肥満細胞腫というものをご存知でしょうか。
昔からよく知られた病気なのですが、なぜかここ最近、セミナーでも、勉強会でも、そして診療でも目にする機会が多く自分の中では何かとホットな疾患です。せっかくなので今回は肥満細胞腫について少し触れたいと思います。
文字通り、肥満細胞という細胞が腫瘍化したものなのですが、そもそも肥満細胞とは何なのか。簡単にいうと、粘膜の下部や結合組織に分布している細胞で、ヒスタミンなどの生理活性物質を多く含んでいるとても重要な細胞です。普段は炎症や免疫反応の場で活躍しているのですが、残念ながら腫瘍化してしまうと、この生理活性物質の影響で腫瘍部位の痒みや痛み、消化管潰瘍、貧血などの症状が出てきてしまいます。
肥満細胞腫は皮膚・皮下の腫瘍の中で発生率が最も高いと言われていて、そのためか、検査方法や治療法が盛んに研究されています。先日参加したセミナーでは、講師の先生に治療のフローチャートを見せてもらいましたが、外科手術のプランや抗がん剤、病理検査や遺伝子検査など、とてもボリュームがありました。特に抗がん剤については近年、分子標的薬という新しい薬が登場したことで治療の幅が広がっているようです。加えて腫瘍ができる場所もボリュームがあると言いましょうか、背中や手足、口の周りやお腹など様々な場所に発生します。ただのしこりだと思って見過ごさないように注意したいところですね。
どうでもいい話ですが、自分自身初めて「肥満細胞」という名前を目にした時は、字面が肥満体型と結びついて、脂肪細胞と混同してしまい、「肥満細胞腫って太っている動物がなりやすいのか?」と考えたりしていました。細胞自身が膨れた様子からこの名前がついたそうですが、実際の肥満とは関係ないようです。
巨海 竜一(獣医師) 2019年2月28日